開いた携帯の画面を顔の前に突きつければ、駿はいつものように眉をひそめ、あたしの顔を見た。「……なんだよ」面倒くさそうに呟いて、画面はろくに見ることなくテーブルの上に広げたレポートに視線を戻す。そんな彼の眼前に、「ちゃんと見てよ!」とあたしはふたたび携帯を押しつけると
「ほら、この写真! お姉ちゃんと直紀お兄ちゃんだよ!」
「そうだけど、それがなんだよ」
「今日、ふたりでいっしょに買い物してた!」
「……で、お前はそれをわざわざ撮ってきたのか」
 あきれたように呟いてから、「お前さあ」と駿は視線を上げてあたしの顔を見ると
「この前から、なにがしたいわけ?」
「な、なにって」
「そうやっていちいち直紀とみなの写真撮ってきて俺に見せて、なにがしたいんだよ」
 うんざりした調子で突っ返させ、あたしは唇を噛む。「なにって!」ぎゅっと携帯を握りしめ、再度駿の前に突きつけると
「教えてあげてるの! お姉ちゃんと直紀お兄ちゃんがこっそりふたりで会ってること!」
「なんだそれ。べつに会ってたっていいだろ。つーか、こっそりってわけでもないし」
「だって駿、いつも言うじゃん! 直紀お兄ちゃんはぜったい今のカノジョと別れないって!」
「言うけど」
「でも直紀お兄ちゃん、今もお姉ちゃんとふたりで会ってるよ!」
「だから、べつに会ってたっていいだろ。あいつら、今も普通に仲良いんだし」
 わけがわからないといった調子で返して、駿はまたレポートに目を落とす。ちらりと目をやったそれは、あいかわらずなにが書かれているのかなんてさっぱりわからなくて、ますます聞き分けのない苛立ちが膨らむ。だいたい、なんでレポート書くだけなのにいちいちお姉ちゃんの部屋に来てるんだ、このひと。大学受験のときも、いっしょに勉強するわけでもないのにわざわざお姉ちゃんの部屋に来て勉強してたし。イライラとそんなことを思いながら、あたしはテーブルの上にばん、と手をつくと
「ねえ駿、ちゃんと見た? この写真!」
「見たよ。普通に直紀とみながいっしょに歩いてる写真だろ」
「違う、もっとちゃんと見てよ!」
 しつこく食い下がれば、駿は渋々といった様子で顔を上げ、画面に目をやった。けれどまたほんの数秒で、いやみったらしく並ぶ小難しい文字列のほうへ視線を戻そうとする彼に
「――楽しそうでしょ」
 投げつけるように言えば、シャーペンを握る駿の手がふっと止まった。「お姉ちゃん」その反応にようやく満足しながら、あたしは追い打ちをかけるように重ねると
「直紀お兄ちゃんといっしょにいるときは、ほんと楽しそう」
「……そうだな」
 なんでもないことのように相槌を打つ、だけどその目は頑なに携帯の画面から逸らされている。いつもそうだ。べつにいいだとか口では言いながら、彼はあたしが突きつける写真を見ない。見ようとしない。興味がないからとかではなくて、見たがっていないのをあたしは知っている。そんな彼にしつこく写真を突きつけて、なにがしたいのかなんて知らない。自分でもわからない。ただそうして目を逸らす彼を見て、じわりと胸の奥に湧く暗い悦びと、いっしょにおそってくる心臓を締め付けられるような痛みを確認するように、あたしは今日も、彼に写真を突きつける。
「お姉ちゃんって、ほんとはまだ、直紀お兄ちゃんのことが好きなんじゃないの」
「そうかもな」
「駿、それでいいの」
「そりゃ、それならそれでべつにいいよ」
 嘘ばっかり。突き返そうとした言葉は、だけど喉に詰まってしまって出てこなかった。代わりに泣きたくなるような息苦しさがおそってきて、あたしは途方に暮れた気分で、突きつけていた携帯を下ろす。駿は数分前に見せたかすかな動揺なんてもうなかったことのように、レポートに向き直っている。その、どうしたってあたしよりずっと大人びた彼の横顔を眺めながら、あたしのほうがよっぽど、追い詰められていくのを感じた。


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